王朝史との異なる視点:人口の視点から見る中国史

感想文 人口の中国史 上田 信著 岩波新書 何事にも出会いというものはあるもので、この本は古本屋の店先の安売りワゴンで見つけたものである。110円であった。2020年初版であるし、傷みもなく、中国史の本を続けて読んでいた時であったので、買っておいても…

中国史を地球的視座から読み解く、経済と社会の変化と展望

感想文「シリーズ中国の歴史⑤ 「中国」の形成」 岡本隆司著 岩波新書 昨年10月に中公新書で「物語 中国の歴史」について感想文をアップしているのに続いて、さらに詳しい本が読みたくなり手にした一冊。中国史は人気があるのだろう、本屋には様々な本が並ん…

感想文「ジョブ型雇用社会とは何か」  濱口桂一郎著  岩波新書 

サラリーマン時代に人事労務的な仕事をやったこともあり、ジョブ型雇用とは何か、よく理解したいと考えてかつて購入した本である。 日本における多種多様で錯綜した労働環境(正社員・派遣社員・パート社員、請負契約、etc.,)、それらの歴史的変遷、外国人労…

感想文 「教育は何を評価してきたのか」  本田由紀著  岩波新書

11月15日に感想をアップした「日本ってどんな国」を著した本田由紀教授の本である。 冒頭、上記の著書と同じように、社会学的な手法で日本人のスキル、意識についての分析が述べられる。 それによれば、日本人は、読解力、数学、科学と言った分野だけで…

「諦念後」  小田嶋 隆著  亜紀書房

小田嶋氏は1956年生まれ、2022年6月に惜しくも病気のために世を去った。私より数年年長であるが、ほぼ同世代と言うことになる。 小田嶋氏が晩年(今となってはそう言わざるを得ないが)に日経ビジネスなどに連載していたエッセイ、また、twitterでの書き込み…

「The BEST 10分間ミステリー」  宝島社文庫

今年の3月に中山七里氏の「さよならドビュッシー」の感想をアップしている。デビュー作としてのレベルの高さを絶賛したのだが、欠点として人物描写の浅さを挙げている。 これは、執筆経験を積めば技術が高まるはずなので、習熟した中山氏の作品を読みたいと…

「日本ってどんな国」 本田由紀著 ちくまプリマー新書

著者は東京大学大学院教育学研究科教授。 一般向けにも多数の著作を発表している、新聞にも度々登場する著名な学者である。 この本は、日本の家族、ジェンダーや学校や、仕事や、友達などの有り様を、各種の国際比較が可能な調査、統計を駆使して社会学的な…

「史的システムとしての資本主義」 ウォーラーステイン著 川北稔訳 岩波文庫

ウォーラーステインはアメリカの学者で、1930年生まれ、ポーランド系ユダヤ人のとのこと。2019年に亡くなっている。世界システム論に関する膨大な著作がある。あれこれの本の中で名前が出てくるので何か簡便に分かる著作はないか、と探したら2022年に文庫本…

「物語 中国の歴史」 寺田隆信著 中公新書

中国の歴史を概括的に知りたいと考えて手にした一冊。現代中国の政治経済、文化を考える上でも、また漢字文化圏の東の端の国に生まれ育った日本人としても、中国の歴史の流れを知っておくことは必要だろうと考えている。 随分以前であるが、陳舜臣作の中国の…

「ペスト」 カミュ著 新潮文庫

随分前に買ってあった文庫本を、夏休みに改めて読み始めて、昨日読み終わった。久しぶりに、文学的咸興が深くやはり優れた文学は良いと思った小説であった。オランというフランス領のアフリカの海辺の都市が舞台である。(現在はアルジェリア領)ペストが流行…

「さよならドビュッシー」 中山七里著 宝島社文庫

前回感想文をアップした「元彼の遺言状」もそうであったが、この作品も、有隣堂しか知らない世界という、youtube番組をみて、作者、作品に興味を持ち、読んだものだ。参考にURLを挙げておこう。 https://www.youtube.com/watch?v=HwvSdRFQqrk 私は名前す…

「元彼の遺言状」 新川帆立著 宝島社文庫

久々のミステリー作品である。2020年に「第19回このミステリーがすごい大賞」を受賞した作品と言うことである。綾瀬はるか主演でドラマ化もされている。 私自身は、ミステリーは好きなのだが、最近の大量に出版されるミステリーの中で何を読んで良いか…

「家庭用安心坑夫」  小砂川チト著 群像2022年6月号掲載版 感想文

令和4年上半期第167回芥川賞候補作である。「おいしいごはんが食べられますように」を文藝春秋で読んだわけだが、たまたま候補作である本作についても群像を持っていたので今回芥川賞候補作になっている作品を読んでみて感想を書いてみることにした。本作は…

「美味しいごはんが食べられますように」  高瀬隼子著 文藝春秋掲載版 感想文

令和4年上半期第167回芥川賞受賞作である。芥川賞受賞作を好んで読んでいるわけではないのだけれど、当代の一流作家と思われる方々の選評を読むのが面白くて、掲載号の文藝春秋をなんとなく買ってしまう。ところが、小説というのは実に好みの分かれるもので…

「アドルフ」  コンスタン作 大塚幸男訳 岩波文庫

1964年の訳出である。文学入門的な本で、フランス恋愛心理小説の名作として取り上げられる一作である。三島由紀夫もその「文章読本」の中で取り上げている。ちなみにコンスタンはナポレオンと同時代人である。風景描写や、人物描写、主要な人物以外の動きな…

ホモエコノミクス 「利己的人間の思想史」重田園江著 ちくま新書 2022年3月初版 

著者は、明治大学政治経済学部の教授で、ミシェル・フーコーの専門家として重きをなしている方である、らしい。らしいというのは私がアカデミズムの世界について全く疎いからだが、実は重田先生の本は、同じちくま新書のフーコーの入門書が最初であった。フ…

物語 ウクライナの歴史 「ヨーロッパ最後の大国」 黒川祐次著 中公新書

2002年8月初版 2022年4月13版著者は、元外交官であり、ウクライナ大使も務めている。やはり、ウクライナ戦争が始まった事により、急激に買い求められていると思われる本である。私も、戦争がなければ、少なくともこの時期には買わなかっただろう。内容は、ウ…

佐藤優の集中講義  「民族問題」  佐藤優著 文春新書

2014年から2017年に行われた講義について、2017年に第1版が出版され、2022年の4月5日に第3版が発行されている。私が手にしたのは2022年6月である。2022年2月24日にロシアの特別軍事作戦がウクライナに対して開始され、これを書いている…

「辛口サイショーの人生案内 DX」 最相葉月著   ミシマ社

読売新聞で長らく続いている「人生相談」の著者による回答集である。人生相談というものは、三島由紀夫は、誰でも笑って読むものだ、と言っていたし、サルトルは、あらかじめ相談者は、誰に相談するか(どのような答があるのか)を選んで相談するものだと言…

「坊ちゃん」夏目 漱石著 岩波文庫で読みました

よく読まれていると言う意味では、夏目漱石の代表的作品の一つである。若い頃に一度読んで、その時の印象は、評判とは違っていま一つスカッとしないな、と言うものであった事を覚えている。今回再読し、やはり同様の感想を抱いた。 坊ちゃんは父親や母親に愛…

「安いニッポン  「価格」が示す停滞」中藤 玲著 日経プレミアシリーズ

日経新聞に2019年12月に連載された記事を元に加筆され纏められた本。一口で言えば、今や日本の物価は世界の中で、アジアの中でも安く、コロナ前に多くの外国人が日本を訪れていたのは、日本が優れているからでも、多くの日本ファンがいるからでもなく、日本…

「マンガでやさしくわかるオープンダイアローグ」 向後義之 久保田健司著 日本能率協会マネジメントセンター

オープンダイアローグと言う言葉を知ったのは、斎藤環氏のtwitterからである。幾つかの短いメッセージから、これは面白いかもしれないな、と興味を持った。その斎藤環氏が、マンガでわかるオープンダイアローグの本を出すというので、本屋で探したところ、一…

「天人五衰」 三島由紀夫著 新潮文庫  感想文

三島由紀夫の「豊饒の海」最終巻(第4巻)であり、三島由紀夫最後の作品である。昭和45年の11月25日に脱稿し、その日に、いわゆる三島事件により自決した事になる。 しかしここでは、文学的な感想のみ述べることとする。「豊穣の海」は、法律家である本多繁…

「人新世の「資本論」」 斎藤幸平著 集英社新書  感想文

新書としては、注を含めて375ページある、なかなか分厚い本である。加えて固い内容にもかかわらずよく売れているらしい。私は知人がfacebookで紹介しているのを見て興味を持ち読んで見た。感想を網羅的に書こうとすると膨大になるし、「武器としての資本論」…

「単純な生活」 阿部昭著 小学館  感想文

小学館のP+D BOOKSという新しいスタイルの本である。ペーパーバック+デジタルだそうで、本の作りは、確かにペーパーバックで六五〇円と安い。阿部昭は、この本の終わりに書かれた紹介によれば、1934年生まれ、1989年没である。一般にはおそらく短編…

「武器としての「資本論」」 白井聡著 東洋経済  感想文

白井聡氏は、「永続敗戦論」で名をあげた(と、素人の私には思える)学者である。本のカバーに掲載された紹介によれば1977年生まれであり、京都精華大学教員となっている。若いが、この年代であれば、准教授とか、教授などという肩書きであってもおかしくな…

「袋小路の男」 絲山秋子著 講談社文庫  感想文

絲山秋子の連作短編2編と「アーリオ オーリオ」という短編が収められている文庫本である。はじめの2編「袋小路の男」と「小田切孝の言い分」は対になった作品である。 「あなたは、袋小路に住んでいる。」と言う文章で始まる「袋小路の男」は一人称の小説で…

「未完の資本主義」 ポール・クルーグマン他著 大野和基インタビュー編      PHP新書

デビッド・グレーバー(David Graeber)の「ブルシットジョブ」という本が話題になって、読んで見たいと思い本屋で探してみると、とても厚い本だったので、基本となる知識もまるでなかったから、もっと手軽な入門書的な本はないか、と本屋の端末で検索して見つ…

「小松とうさちゃん」 絲山秋子著 河出文庫  感想文

絲山秋子の中編と、二つの短編が収められている文庫本である。 絲山秋子の作品を、本屋で手に入る順に(出版された順番にはあまりこだわらず)読み続けている。この作品集においては、一番長い中編作品「小松とうさちゃん」について書いておきたい。 小松と…

「忘れられたワルツ」 絲山秋子著 河出文庫  感想文

絲山秋子の短編集である。マイブームで絲山秋子を読み続けている。 短編集であるから、それぞれに個性の異なった小説が7つ収められているのであるが、ここでは主に、最期に収められた「神と増田喜十郎」について語りたい。 まず、増田喜十郎という人物造形に…