まず、この本で扱っている小説を以下に列記する。
夏目漱石 三四郎
森鴎外 青年
田山花袋 田舎教師
武者小路実篤 友情
島崎藤村 桜の実の熟する時
細井和喜蔵 奴隷
徳富蘆花 不如帰
尾崎紅葉 金色夜叉
伊藤左千夫 野菊の墓
有島武郎 或る女
菊池寛 真珠婦人
宮本百合子 伸子
二葉亭四迷 浮雲
野上弥生子 真知子
堀辰雄 風立ちぬ
山本有三 路傍の石
「伸子」までが項目を立てて論じられている小説であり、以下は項目はたっていないが、評されている作品である。
まず第一に私自身の反省を述べなくてはならないなあ。本好き、本を読んでいるほう、と思っていた私であるが、上記のうち読み通したのは三四郎だけである。青年は数年前に買って積読状態。風立ちぬは若い時に一度読み始めて、あの独特の文体がだめでやめてしまった。金色夜叉もちょっと読んで、やめてしまったなあ。浮雲も一度買った気はするが。。
こうなると、私は読書家とは言えない、という最近ひしひしと感じる自己認識の修正を改めて再確認した次第。素人なのだから、全部読んでいなければいけないわけではないだろうが(特に細井和喜蔵とか)、さすがに1冊ではね。
気を取り直して本書の感想文を書いておく。
明治以降、ほぼ戦前までの日本における代表的な青春恋愛小説を取り扱いながら、時代背景、歴史的進展と絡ませながら論じている。著者も意識しているだろうが、ある程度図式的に整理しており、分かりやすく、読みやすく、面白かった。
本書で青春恋愛小説のプロトタイプとされる三四郎で示される三つの世界、を示す。
1.母や知り合いが住む遠い故郷。
懐かしく温かい世界だが、すでに違和感を感じてい る世界でもある。そこに居続けるわけにはいかないが、出世した後で顔を見せれば、親も喜ぶ世界である。
2.学者あるいは知識人の世界。
秀才を自負する若者があこがれる世界だが、案外辛気臭い。人生をかけるに値するか、まだ自信が持てない。
3.華やかな都会の文化、女性がいてキラキラした世界
何しろ都会は様々な人がいて、女性がいて、歓楽街があり、楽しい世界であり、大いに惹かれる世界である。恋愛して、素敵なパートナーを得なければとも思っている。
ここに青年の古典的な行動パターンが発動する要素があるわけだ。
1.田舎の秀才が立身出世を夢見て、都会に旅立つ。
2.の世界にあこがれ、関係は持ちつつももう一つ煮え切らず、3.の世界で社会勉強と称して、ウロチョロする。できれば女の子をひっかけたい。しかし、田舎育ちの主人公は、女性へのアプローチの方法も知らず、おたおたするうちに逃げられてしまう。
なんだ、三四郎はそういう話だったのだな。ストレイシープどころではないな。確かに著者の言う通り、美禰子は三四郎が特に好きではないように読める。
青年も、田舎教師も、その変奏である。なるほど、経済的条件などで、都会に出られず悶々としたり、工場労働者となったり、ということはあるが、都会に出る、出世を夢見る、でも自分勝手で頭でっかちで女性には振られる、が普遍的パターンというわけだ。
著者の男性主人公に対する視線は厳しい。頓珍漢で、自分勝手で、女性に対しては上から目線で、自分では誠実なつもりで、しかもいざ告白など度胸がいるときには腰砕けで、逃げちゃったりする。本書のあちこちで罵倒されることしきり。
一方で、社会の変化による行動変容が当然、恋愛に対する考え方にも影響し、若い男女の行動も変わってくる。社会的背景により、そこで右往左往する男女の心理と感情も変わってくるわけで、時代思潮の変化と作品に現れる人物の思考と行動の変化を結び付けているところが、著者らしい着眼点であり、私が最も面白いと思ったところである。
読書ガイドブックとして良質。まずは、青年から手を付けていこうかな。戦争と平和のあとになるかな。