2019-01-01から1年間の記事一覧

フランス白粉の謎   E・クイーン作 角川文庫

国名シリーズ第二作。前作で書いたような特徴はそのままほぼそのまま続いている。すなわち、突飛な人物描写、やや日本人には縁遠い歴史などの知識の披瀝、読者への挑戦、論理的にこれしかないとされる解決編など。舞台はニューヨークのデパート。ちなみに、…

ローマ帽子の謎  エラリー・クイーン作 創元推理文庫

推理小説が好きな人なら名前を聞いたことがあるはずの作品である。エラリー・クイーンのデビュー作にして、国名シリーズの第一作。作者と名探偵を同名にしたところ、手がかりをすべて与えたとして、結末の前で読者に挑戦するところなど、マニアにはたまらな…

「読まなくてもいい本」の読書案内  橘玲著 筑摩書房文庫

橘玲の本を続けて(と言っても、一冊おきぐらいであるが)読んでいる。この本はその中でも考え方の基本がはっきり出ていて、実に興味深かった。読まなくて良い本とは、若い人のための読書案内である、とプロローグで書かれている。世の中には膨大な本があり…

「AIに負けない子供を育てる」 新井紀子著  東洋経済新報社

著者は、AIで東大合格を目指すという、一般大衆にとっても実にキャッチーなプロジェクトを率いて大変有名になった学者である。また前著「AIvs.教科書が読めない子供たち」がベストセラーとなったことでも知られる。本書は、その続編であって、読解力テス…

言ってはいけない   橘玲著 新潮新書

2017年度に新書大賞を受賞したとのこと。残酷すぎる真実という副題や、美貌格差と言う言葉にアレルギー反応を起こし、読まないでいた。世の中の現実を見れば幾らでもそういう見方はできる(それなりのもっともらしい証拠も探せる、エコノミストがイベントが…

群像短編名作選 講談社文芸文庫 1946~1969   講談社

文芸文庫からはいろいろな短編集が出ていて、短編好きな僕としては、なかなか楽しいのだが、この本もとても楽しかった。いくつか寸評。 岬にての物語 三島由紀夫 まずは、三島だ。この名高い短編を、三島好きと言いながら、今頃読むとは。何より回顧する文体…

「ピーター卿の事件簿」 ドロシー・セイヤーズ 創元文庫  感想文

文庫カバーの宣伝文句によれば、クリスティと並び称されるミステリの女王セイヤーズ、ということである。僕は初めて読んだ。イギリスのちょっと古風な、おっとりしたミステリーは好きなので、(つまりクリスティ好きだが)その趣味から言えば、一応ストライ…

「土の中の子供」 中村文則著 新潮文庫 感想文

中村文則の芥川賞受賞作。児童虐待を受けた側からの視点で書かれた作品であり、読むのにとても時間が掛かった。幼児から親戚に預けられ暴力を受け続け、ついには土の中に埋められ、殺され掛けた主人公が、運良く生き延び、施設で成長し、今ではタクシー運転…

黄金を抱いて翔べ  高村 薫著 新潮文庫

高村 薫のデビュー作である。僕は、以前レディ ・ジョーカーを読んだことがあって、その緻密な文体に驚いた覚えがある。 宮部みゆきと並んで、並大抵でないミステリー系作家としてもっと作品を読みたいと思っていた。 と言うわけで、今回デビュー作を手に取…

ジーブスの事件簿 才知縦横の巻 文春文庫 P G ウッドハウス著

イギリスの貴族と執事を登場人物とした、ユーモア小説。 ユーモア小説、と書いたが、コメディ小説と言った方が良いのかもしれない。 僕としては、品の良い、読みやすい、しかし小説としての面白さも持っている、後味の悪くない短編小説への渇望は常にあって…

「穴」 小山田浩子作  新潮文庫

「工場」で新潮新人賞を受賞し、世に出た小山田浩子が、芥川賞を受賞した作品である。 パートで働いていた主人公が、夫の実家に転居することとなり、家賃を免除されることから、当面働かなくて良くなる。だがその場所は、今まで暮らしていた場所からあまり遠…