フランス白粉の謎   E・クイーン作 角川文庫

国名シリーズ第二作。前作で書いたような特徴はそのままほぼそのまま続いている。すなわち、突飛な人物描写、やや日本人には縁遠い歴史などの知識の披瀝、読者への挑戦、論理的にこれしかないとされる解決編など。
舞台はニューヨークのデパート。ちなみに、題名のフランス白粉が出てくるわけではなくて、デパートがフレンチ百貨店と言う名で、社長がサイラス・フレンチ、被害者である夫人がウィニフレッド・マーチバンクス・フレンチという名前である事による。
夫人の死体が表通りに面したショールームで発見されるところからストーリーが始まるが、このショールームでの場面が実に長い。ローマ帽子で最初の劇場での場面がとても長かったが同じパターン。それにしても狭いショールームに、デパートの関係者、被害者の家族、警察関係者を詰め込み、それらの人物が入れ替わり立ち替わり現れては証言をしたり、卒倒しそうになったり、ということで、読み疲れてしまった。
もう一つの大事な現場は、最上階の住居兼会議室。ここで取締役会などが行われるとともに、エラリーは、実に重要な証拠をここで発見するわけだが。。。
 私としては、ここに一つ推理小説としての難があるのではないかと考えた。これもネタバレになってしまうといけないが、やや婉曲に書くと、そもそもショールームで発見された遺体について、そこが殺人の現場ではないことをクイーン親子が推定した理由は出血量が少ないことだった。少しばらしてしまうと、殺人現場は最上階だったわけだが、すると最上階の現場では大量の血の問題が必ずあるはずだ。そして、その処理がエラリーが発見した重要な証拠の一つなのだが、そこで示されているものだけで、血の処理ができたのか?と疑問だった。銃で二発撃たれた設定であり、であれば大量の血が飛び散り、流れたのでは?
もちろん設定は1920年代なのだから、現代のルミノール反応試験はまだないにしても、拭き取るだけで結構大変ではないか?と言うところが引っかかってちょっと熱が冷めてしまった。
とは言え、解決編は圧巻。関係者を集めた上でのエラリーの熱を帯びた説明は、殆ど演劇的な効果を発揮している。(作者がエラリーの立場をどう捉えるか、つまりどういう立場で話させるか、自分の捜査として話すか、父親に擬製するか、微妙にふらついているところがあり、一応指摘はしておく。)
総じて言えば、リアリティーを追求しない、論理ゲームとして楽しく読みました。