ローマ帽子の謎  エラリー・クイーン作 創元推理文庫

推理小説が好きな人なら名前を聞いたことがあるはずの作品である。エラリー・クイーンのデビュー作にして、国名シリーズの第一作。作者と名探偵を同名にしたところ、手がかりをすべて与えたとして、結末の前で読者に挑戦するところなど、マニアにはたまらない仕掛けを作り出した記念すべき作品。と言うことはマニアではないが、推理小説好きではある私にも分かる。思えば、中学時代、1970年代だが、文庫本の背表紙を眺めながらいつか読みたいと思ったものだった。随分時間が経ってしまったが、新訳も幾つか出て改めて読む気になった次第。
以下感想を述べる。
1.細かく描写や情報を詰め込んだ文体は、なかなか物語の進行の速度、遠近感がつかめず、話になかなか入っていけなかった。
2.特に人物描写は突飛な表現が連続して、人形劇のように激しく人物が表情を変え、動いて行かなくてはならず、なかなかついて行けない。
3.謎は解けなかった。というか、私はそれほどマニアではなくて、物語の雰囲気を愉しみたい方だから、敢えて詰めて考えなかったのだが、それでもこのあたりだな、と思った範囲に犯人がいたので少々鼻が高い。
4.しっかり絞り込めなかった理由の一つは動機だが、それは現代の日本人には分からないし、現代のアメリカでももう書けない、あるいは書いてはいけない内容であった。一応、ネタばらしはするべきではないという原則に従って、ぼんやり書いておく。
5.では、つまらなかったかというとそうでもなくて、だんだん文章の癖がつかめてきて、なれてくると、犯人が明らかになるのが楽しみになってくる。謎解きの面白さというものは確かにあるのだ。しかもとても強力に。
気楽に読むのには丁度良い。集中できるが、後に残らず、安眠できる。そういう意味では、人物描写が重くないことがかえって良いのかもしれない。
ということで、人生にいささか疲れた60過ぎの勤め人が、頭を休めるために読む本としては好適。国名シリーズは、続けて読みたい。
推理小説としての評価は、シリーズを読み進んでから、比較しながらやることとしよう。