「さよならドビュッシー」 中山七里著 宝島社文庫

前回感想文をアップした「元彼の遺言状」もそうであったが、この作品も、有隣堂しか知らない世界という、youtube番組をみて、作者、作品に興味を持ち、読んだものだ。
参考にURLを挙げておこう。

https://www.youtube.com/watch?v=HwvSdRFQqrk

私は名前すら知らなかったのであるが、中山氏は大変な流行作家のようで、毎日二五枚書き、月十本以上の連載をこなしているということだ。
二十四時間定点カメラによる作家の生活が報告されているが、17.5時間を執筆に当て、そのほか映画鑑賞や読書もしていて、睡眠時間は3時間である。この日はエナジードリンクを飲むだけで食事はしていなかった。
さて、表題作は氏のデビュー作であり、このミステリーがすごい大賞受賞作である。
 結論を言うと、ミステリーのトリックという点で、私は見事に引っかかり、脱帽した。このトリックが何か、と言う点はネタバレになるから言わない。しかし、そう来たか、やられたぞ、という思いは確かにあった。
 ミステリーを沢山読んでいるわけではないが、それなりに犯人の目星はなんとなくつく場合が多い。今回も、やはりこの人かな、でもそうするとインパクトないな、と思いながら読んでいったのだが、見事に背負い投げを食った、という感じである。
 さて、もう一つこの小説で感心したのは、作者の音楽への造詣の深さである。これは生半可では無い。音大レベル? あるいは自分が演奏家として有るレベルまで真剣に努力した人でなくては書けないのではなかろうかと言うものである。またそれだけの知識があったとしてもこれだけ演奏シーンに託して表現できる点はすばらしい。その部分を読むだけでも価値がある本であると思う。

 さて、一方で目についた欠点。これは私の好みと言えばそれまでだが、人物描写がやや浅薄。これはミステリー小説、エンターテインメント小説の場合意図的にやる場合があるので一概に言えないが、類型的人物像が多いという気がした。
 また台詞回しが、べたで小説的膨らみがない場面がしばしば。
説明するな、描写せよ、と言う言葉があるが、説明に傾いて居るのである。
だがそのような私的も全体の揺るぎない構成(トリック)を成り立たせた筆力の前では大した傷ではないとは言えるだろう。
 どのように流行作家として成熟したのか、最近の作品を読んでみたい。