「辛口サイショーの人生案内 DX」 最相葉月著   ミシマ社

読売新聞で長らく続いている「人生相談」の著者による回答集である。
人生相談というものは、三島由紀夫は、誰でも笑って読むものだ、と言っていたし、サルトルは、あらかじめ相談者は、誰に相談するか(どのような答があるのか)を選んで相談するものだと言っていた。
 私自身は、どんな相談を寄せられても、相談者の詳しい人生がわからない以上、とても責任を持った答などできないし、そもそもどんなことを相談されても自信を持って回答することなどできないと思っているので、あまり興味はない。とはいうものの歳のせいか、この頃読売新聞の相談欄をつい読んでしまうことが多い。

回答者は多数いるが、「人生そんなに悪いものではないよ」「あなたも至らぬ点に気を付けて」「我慢するのが第一です」的な、私もよく言ってしまうかもしれないが、役に立たない気休め程度の回答も多い。
例えば、有る相談では、性欲が強くて困っている老人に、我慢しろと言う回答であったが、それだけではどうにもならぬのではないか。新聞では、風俗に行けとも言えないし、相談者も風俗など望んでいないのだから、答えがたいのであるが。
その中で、最相氏の回答は、鋭く、容赦なく、時にやさしく、出色と言っていいと思っていたら、そう思うのは私だけではないようで、相談と回答を纏めた本があり、これで二冊目の出版のようだ。

いちいち中身を書かないが、見開き2pで、右側に相談、左に回答という配置で、読んでいるうちに、これは、ミニミステリ集ではないか、と思えてきた。
相談の手紙から、読者の得て勝手な思い込みや、嘘とまでは言わないまでも、牽強付会な言い回しを見抜いて、時には相談者の気付かぬ問題点を指摘してズバリと回答する(もちろん問題によってはそうできないものもないではないが)のは殆ど痛快と言っても良かった。
名探偵最相と大向こうから声を掛けたい位である。

 しかし、こういう回答をするためには、相談者の身になって真剣に考え、想像力を働かせなければいけないであろうし、広い意味で人間に対する理解と優しさがなければならないだろう。私にはとてもできない。頭が下がります。

 ところで、最相葉月氏と言えば、「絶対音感」でその名を馳せその後も数々の重厚な本を出しているが、私はその文体がどういうわけか、もう一つのめり込めない。おそらく、前段で書いたように、真面目で緻密で、高尚な方なので私のような人間が読むには密度が濃すぎるのかもしれない。
 ところが、この本は見開き2Pなので、その点息継ぎができて、私などには丁度良かったのかもしれない。
 上等な本であった。