「マンガでやさしくわかるオープンダイアローグ」 向後義之 久保田健司著 日本能率協会マネジメントセンター

オープンダイアローグと言う言葉を知ったのは、斎藤環氏のtwitterからである。幾つかの短いメッセージから、これは面白いかもしれないな、と興味を持った。
その斎藤環氏が、マンガでわかるオープンダイアローグの本を出すというので、本屋で探したところ、一部マンガの本書があり買って見た。実は斎藤環氏の本はまだ本屋になく、間違えて買ったことになるのだが、これはこれで新しく出版されたオープンダイアローグに関する本で、ムダにはならなかった。

1.オープンダイアローグとは何か。
本書によれば、フィンランドの西ラップランドの家族療法家たちが中心になって行っている心理療法のことで、投薬なしに統合失調症の治療に効果を上げているとのこと。
内容はシンプルで、精神科医、看護師、ソーシャルワーカーなどのチームによるアプローチであって、ミーティングとリフレクティングという二つのプロセスによって二つのプロセスで構成されている。
ミーティングは、クライアントを含めてのチームでのミーティング。リフレクティングとは、クライアントの眼の前で、専門家たちがミーティングの結果について話し合うこと。であるそうだ。

2.私なりに捉えたオープンダイアローグの面白さ
 私自身は、心理療法家ではないし、医者でもない。還暦を過ぎたサラリーマンである。病的な人に対する療法としての評価をする能力は持っていないが、サラリーマンの実務にも生かせるのではと感じたので、その点を書くこととする。

3.会社勤めも様々な会議や対話で成り立っている。
会社勤めにおいては、会議や面談というものを沢山、かつ定期的に行う事となる。会議には様々な種類があるが、課題が有って皆で自由に意見を出し合って解決策を出そうというタイプの会議も当然ながらよく行われる。また、面談というのは通常上司と部下が一対一で仕事の目標や成果について話し合い、お互いに理解を深め成果を出していけるようにしよう、というような趣旨で行われる。近年特に面談は人事施策上重要性を増しているように感じられる。

4.会議や対話の実態
 自由闊達で、談論風発、が理想であるが、新しいアイデアを出し合おうというような会議は通常なかなかうまく行かない。会議の方向性や落とし所のようなものを、皆あらかじめ思い描いていることが普通であるし、さらには誰が出席するかと言うことが、重要となる。会社のヒエラルキー、権限、日頃のその人の主張、性格などを考え合わせて発言し、議論らしきものを行うこととなる。出席者は職制にかかわらず皆平等に発言できるなどというたてまえをまともに信じたら痛い目に遭うということをみなよく知っている。オーソドックスな日本の会社のサラリーマンにとって何より重要なのは、建前を尊重しつつ、しかしヒエラルキーにおける自分の位置を絶対忘れない事なのだ。だがそうすればするほど、会議も面談も一定のタスクをこなすだけの儀式めいたものになりがちだ。

5.オープンダイアローグの可能性
そこで、オープンダイアローグである。一口で言えばこれは押しつけることはしない、専門家(会社組織の中でも権威として認められてる人、例えば上司)といえども一方的に決めつけることはしない、一人だけの意見にとらわれない、対話の方法論としての側面を持っている。
 もう一ついえば、無理に結論を求めない、という側面もあるのではないか。人の心に理論を当てはめれば、問題を解決するための一定の結論は見えてくるが、リアルな何かが置いてきぼりにされると言うことが、実際の現場では往々にしてあるのではないか。
 実際の会議では、結論をいつまでも先延ばしにする事はできないが、有る結論ありきの会議は空疎なものとなり、限りなく参加者のやる気を削ぐものだ。
 精神療法としてのオープンダイアローグそのままと言うわけにはいかないかもしれないが、モディファイしたものがつくられて、真に生産的な「対話」を導く方法論として認知されれば、会社の会議は幾分かはまともになるのではと私は思う。
 もちろん、そうなったからとしても、みなが和気藹々などと言っているわけではない。闇雲な精神論によって思考停止に陥ったり、声が大きいものにポリフォニックな多数の声がかき消されたりする事が、方法論的に明確な形で抑制されることが意志決定の健全さに役に立つだろうと考えるし、少々大げさだが、会議の参加者つまり社員の心の健康にも幾分かは資するだろうと思うのだ。

 優秀なメンタルヘルス療法医が、商売の種でなく、ビジネス界のためにオープンダイアローグの方法論を展開してくれないかな、と儚い望みを記しておく。
DX がこれだけはやったのだから、ODX (オープンダイアローグビジネストランスフォーメイション)なんてのも、案外いけるのではないか。叱られますかね。