「超マクロ展望 世界経済の真実」 水野和夫 萱野稔人著 集英社新書

ゴールデンウイークの移動時間と移動先での時間を使って、読了した。エコノミストと若手哲学者との対談本。対談本というところが新書らしいところで、作りが安い感じがしないでもないが、読みやすくテーマも絞られている。
ここでのキーワードは、「交易条件」・「利子革命」である。さらに、景気循環論に頼らず、資本主義経済体制を歴史的視点で見て、永続するシステムとは見ない視点が重要であるとする。交易条件とは、どれだけ効率よく貿易ができているかという指標である。簡単に言えば原油を中心とする原料価格が高騰すれば条件は悪くなり、利益は出にくくなる。利子率は、長期的には利潤率に一致し、歴史的に広義の資本主義的経済が成熟しすると、利益を大きく取れなくなり、低下する。歴史的には、利子率の低下と附合して、経済の覇権がイタリア、大航海時代のスペイン・ポルトガル、さらにオランダから世界の海を制覇したイギリスに移ったとする。以来、大きく言えばイギリス、そしてアメリカの覇権が続いてきたが、いよいよそれが終わりかけているのでは無いか、というのが水野氏の見立てである。
したがって、循環論に基づく景気回復論、リフレ派と言われる貨幣供給をとにかく増やせば景気は回復するという考え方を批判する。それらは歴史的視点を欠いているからだ。
また、経済における国家の役割を強調する。リーマンショックにおいても、結局国が金融機関を助けたこと、金融機関自体がそれを望み、新自由主義的経済に反する振る舞いをしたことが、それを証しているとする。
国家の役割では、新しいルールを作る役割が強調される。国家とは自国に有利な経済ルールを考え出し、プレイヤーを説得する(インテリジェンス)力が必要とされる。近年では金融におけるBIS規制などの例が挙げられている。
 ここで述べられていることがすべて正しいかどうか、と言うことよりも、現在の経済論調、政治家の景気回復論をみると少なくとも、こういう歴史的視点を持って考えてみることが必要ではないかと思われる。リーマンショックの時にも書いたことだけれど、新興国市場を求めて経済が浮揚したとしても、その新興国の経済が成熟したらいったいどうするのか、ということは誰でも思い至ることではないだろうか(この本でも触れられている)。
この本でも、かつて柄谷行人が言ったように、少なくともこのままの経済体制ではあと数十年で資本主義経済は破綻するのではないか、という危惧が述べられている。
一言で言えば、低成長・あるいは成長0の循環的経済である事を自明とした経済運営について、知恵を巡らせなければならないと言うことなのかもしれない。
えらい時代に巡り会わせたかもしれないが、望むらくはそれを奇貨とするぐらいの知的タフネスを持ちたいものだ。