中島義道著 カントの人間学   講談社新書

僕は中島義道氏の文章とは相性が良いようだ。どの本も割合面白く読めてしまう。この本はカントの人となりを生い立ちや、彼と親しかった人たちの証言を元に纏めたもの。
カントが人間関係を積極的には築かない人であって、貧しさに耐え、刻苦勉励し、金銭に対してもしわい人であったらしいことと、著作との照応などが語られる。
それは、得てして日本人から西洋文化を見る場合に、ほとんど不可避的に、且つ無意識に取ってしまう仰ぎ見る姿勢を突き崩すために有効に働く。
ゴシップ的な興味も大いにそそられるけれど、むしろ、カント=聖人的な把握を揺るがせることこそにこの本の意味はあるのだろう。
 ということで、★4つ。かな。

宮部みゆき著  クロスファイア  光文社 上下

1998年初版のカッパノベルスである。随分以前に古本で買って長らく積ん読状態であったが、風呂での読書使ってみた。
面白かった。
冷静に考えてみると、ガーディアンという「秘密組織」を使う点と、もう一つ発火させる超能力を使う点で、一歩間違えればまるでリアリティのない「お話」になってしまうところなのだが、そこを宮部みゆきは、独特の生活感でつなぎ止めてストーリーを成り立たせている。
男女の関係、社会の底辺の人々、救いようのない犯罪者の存在。
 全編の中心は、しかし、しっかり者の中年の婦人警官の眼、判断、行動、だろう。彼女がいなければ、この小説は焦点を失うと感じた。

本を読んだ  銀河パトロール隊(レンズマンシリーズ 1)

銀河パトロール隊は1930年代に書かれたSFである。僕が子供のころすでにシリーズが出ていて、読みたいな、と思いながら果たせなかった作品。
新訳が出たので、キンドル版で少し安かったので購入し、読了。

 スピード感あふれる展開、とにかく壮大なスケール、と、いう面白味はあるのですが、ちょうどスタートレックを見るときに感じるような、戦争がすきだなあ、正義の名においては人殺しは何でもないのだな、という印象が強い。その点でとてもアメリカ的。面白かったし、楽しんだけれど、シリーズ2巻を読むのは定年後でよいです。今の僕はSFなら、ディアスポラグレッグ・イーガン)などを先に読みたい。

NEWS WEEK は商売上手

先週号のNEWS WEEK 日本版は、「韓国自滅外交」という見出しが躍っていて、つい手に取ってしまった。買う時からうまいところを突いてくるな、と思ったのだけれど(いまの日本人の気分のスイートスポットを着いてくると言う意味で)こんなツイートがたまたまひっかかった。

武田 肇 / Hajimu Takeda on Twitter: "@cogoc ニューズウィーク韓国語版、日本語版、それぞれ編集者は誠実だと思いますが、直接並べてみると「実に商売上手」と思ってしまいます。しかし、それは双方の社会、メディア状況がわかりやすく反映された事象に過ぎないのでしょう。ナショナリズムはビジネスなんだなあと痛感させられます。"

韓国のNewsweek では当然違う見出し。当たり前だが、ちょっと商売上手って感じ。
肝心の記事については。

韓国も日本も、アメリカを無条件に当てにするな、と言う記事が良かったかな。

「寒い国から帰ってきたスパイ」 ジョン ル・カレ著  ハヤカワ文庫

前から読みたかった本だけれど、ハヤカワ文庫の判型が改まって、活字が大きくなり、目の悪い僕にも読みやすくなって漸く手が出た。
時代設定が60年ぐらい前だから、大時代なスパイものなのだが、あまり古さは感じなかった。
冷戦時代の、特に共産主義政府における恐るべき非人間性、それに劣らぬ西側情報機関の無常なトリック。翻弄されるスパイ。しかしスパイも人間で、年金を気にすれば、女に惚れもする。確かにジェームズ・ボンドとは全然誓った世界。
プロットは見事であるし、結末も胸にしみるが、途中尋問のシーンが長くちょっと読む方としてはダレた。特に二人の対話でどちらが発言しているか分からないような箇所がいくつもあって。文脈を確認すれば分かるのだが、こういう技法上の問題はおそらく作者が習熟する内に解決されて居るのだろう。本作は作者3冊目で、メジャーになった出世作のようなので、今後幾つかの作品を読んでみたい。

俺たちバブル入行組     池井戸 潤著  文春文庫

下町ロケット直木賞を受賞した作家の以前の作品である。
どんな作風か、試し読みのつもりで古本屋で100円で購入して、暫く積ん読状態であったのを、先週末一気に読了。
一口で言って面白かった。バブル期の就職活動の様子や、銀行の融資の手続き、行内人事など、年代は違うけれど、また業種も違うけれど、広い意味で同じビジネスの世界に居る、あるいは就職という課程を経てきたサラリーマンとして興味がもてた。また、大阪の国税の振る舞い方など、人づてに聞いたことのある様子と附合して笑ってしまった。
プロットは、ある意味単純で、上司の悪巧みによって窮地に陥った主人公がめげずに頑張って、最後には復讐を果たすというもの。主人公のキャラクターが途中から、半スーパーマン的に見えてきて、また勧善懲悪のこしらえがはっきりしていて、僕としてはやや興ざめの部分もあったけれど、山場で夢中になって、電車を乗り過ごすほどであったのも事実。
 文章のリーダビリティはなかなか。変に捻ったところがなく読みやすい小説だった。
ということで、星三つ。
企業小説として、この作家の本を幾つか読んでみたいという気になった。

今朝の朝日新聞に書いてあったこと

といっても、付録のbe の青い方だけど。お金の扱いに関するフリーライターの方の記事に、挿絵があり、キャプションが。
「無限に続く家事に対処するには、頭でなく反射神経で動かなければ。。」
というような文言。
そうだよね、、と深く感じ入ってしまった。
僕はいちいち考えてしまう悪い癖があり、それは「こういう家事というのも、カミュが言うところの、シーシュポスの神話というやつかなあ、つらいなあ」などというまるで役に立たないものなのであって、スケジュールは無限に遅れていく、やらなければならない家事、身の回りの雑事は無限に積み上がっていってしまうわけだ。
 むしろ反射神経でどんどん片付けていった方が良いわけだよね。
うんうん。
 というわけで、今日片付けたかと言えば、まだまだなのだが。
 年末に向けて、少しは整理する方向で、前向きに検討したいと考えているところであります。
トホホ。