「寒い国から帰ってきたスパイ」 ジョン ル・カレ著  ハヤカワ文庫

前から読みたかった本だけれど、ハヤカワ文庫の判型が改まって、活字が大きくなり、目の悪い僕にも読みやすくなって漸く手が出た。
時代設定が60年ぐらい前だから、大時代なスパイものなのだが、あまり古さは感じなかった。
冷戦時代の、特に共産主義政府における恐るべき非人間性、それに劣らぬ西側情報機関の無常なトリック。翻弄されるスパイ。しかしスパイも人間で、年金を気にすれば、女に惚れもする。確かにジェームズ・ボンドとは全然誓った世界。
プロットは見事であるし、結末も胸にしみるが、途中尋問のシーンが長くちょっと読む方としてはダレた。特に二人の対話でどちらが発言しているか分からないような箇所がいくつもあって。文脈を確認すれば分かるのだが、こういう技法上の問題はおそらく作者が習熟する内に解決されて居るのだろう。本作は作者3冊目で、メジャーになった出世作のようなので、今後幾つかの作品を読んでみたい。