「ルポ 貧困大国アメリカ」 堤 未果著  感想

岩波新書で2008年1月に発行され、話題になった本である。定価700円とあるが、売れている本は何となく敬遠してしまう悪い癖がでて、今頃古本屋で105円で購入。
 アメリカにおいて、主にレーガンブッシュ政権時代に教育、医療と言った部分を含め広く民営化され、競争原理が働くことによりよりよくなる、はずであったが、実のところ金持ちはますます金持ちになり、貧乏人はますます貧乏人になる、ばかりかアメリカの繁栄を支えていた中間層もちょっと病気になったりするだけで、あっという間に落後してpoor になってしまうという現状をルポしている。
 アメリカの貧困層はカロリーばかり高いジャンクフードを食べざるを得ず、必然的に肥満していること、ニューオーリンズのハリケーンによる災害も人災といえる面があること、あの名高かったFEMAも民営化により力を削がれたこと。そして今では戦争まで様々な側面で民営化され、民営化されているが故に、その部門での犠牲者は表に現れないこと。
 ここに描かれたことが一面的と言うことは簡単だが、一面でもある真実をとらえているであろうことは、僕たちが日頃接するアメリカについての報道からもいえるだろう。
 それにしてもアメリカのエスタブリッシュメントは、国を本質的に強くするために中間層の保護や、貧困層の引き上げを考えないのだろうか。
 考えないのだろうな。それが、人種のモザイク国家、移民が今でも流入し続けるアメリカという国なのだろう。
 そして、何度も持ち出してなんだけれども、戦争の民営化の部分では、僕は伊藤計劃の「虐殺器官」の雰囲気と似ていることに驚いた。
 そこに描かれるエピソードでは無く、その救いのなさ、国家のエゴイスティックな無慈悲さなどが、通底するのだろう。

 文体、内容とも、ニューズウィーク日本版の記事を読んでいるみたいであったけれど(岩波新書の醸し出す雰囲気とは違うかも)、そして、著者の立ち位置に一定のバイアスがかかっていることは理解したうえで(そこにある種の臭みを感じる人もいるだろう)、目を通しておいてわるくないだろう。