「論語物語」 下村湖人著 講談社学術文庫

古典を読んでみようか、と言うことで始めた論語関連の読書に結構はまって、定番の岩波文庫版を手始めに何冊か読み、このブログにも井上靖の「孔子」を読んだ感想を乗せたのだった。
井上版「孔子」が、最終的に「故郷」というキーワードに収斂して、結末で井上靖の世界に変容してしまう印象を与えるのとは違って、本書は論語を読み込み、何度も自問自答を繰り返して自ずとできあがってきた物語という感じがする。
 昭和13年に書かれたと言うからずいぶん古い本だけれど、一般人の論語入門という意味では大変優れていて、今でも群を抜いていると思う。元となった論語の文言を明示し、短編連作の形になっているから読みやすくもある。
集中、僕がもっとも感銘を受けたのは「司馬牛の悩み」という一編だった。
「人の思惑が気にかかるのは、まだ心にどこか暗いところがあるからじゃ」という孔子の言葉は、自意識にとらわれた司馬牛の心を開く。そしてより大きなものが見えてくるのである。
 もちろん悩みがすべて消える、などという安易な話ではないが、僕自身蒙を啓かれる思いがした一編でありました。
 ああ、おじさんぽい文体になっちゃったな。

論語物語 (講談社学術文庫)

論語物語 (講談社学術文庫)