富山和彦著 「IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ」   感想

 

IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ (PHPビジネス新書)

IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ (PHPビジネス新書)

先週、嵐の日に早く帰って最寄り駅についてほっとして、駅ナカの書店でつい買ってしまった本。著者の富山氏は産業再生機構時代からマスコミに登場しはじめ、今やかなりの有名人(と言う表現はあまり適切ではないが)ですね。この本は、その後氏が立ち上げたIGPI(経営共創基盤)という組織のメンバーとの共著。
 結論から言うと、そうか、そうだよ、その通りだよ、と思わず膝を撲つ部分多数。以下、幾つか論点を挙げる。
1.JALの再生を例に挙げて、周辺の(マージナルな)細かい問題、しばしばそれは専門的な素人を煙に巻く問題、が喧伝されるが、本質は過剰な機材、過剰な路線、過剰な人員(それぞれ三割)という本質に収斂されるのであって、そこに切り込んだから黒字になったということ。そこには航空会社であるということに惑わされず、ビジネスの本質を見つめ、どうすれば勝つ形に持って行けるかを考えることの重要性が説かれる。おっしゃるとおり。実際には、組合の問題や、政治家の思惑や、役所の差し金や、まあいろいろあったのだろうが、本質を見誤ってはいけないと言うこと。
2.簿記を分かっていない、だからBSもPLもわからない経営者、政治家、評論家、経済学者(!!)が多すぎる。簿記を中学から学ぶべきだ。という話には、僕も全く同感。まあ、中学で無くても良いけど、普通科の高校でも教科に取り入れるべきだと思う。僕もリーマンショックの時のテレビ番組で見たことがあるが、何かというと「内部留保を取り崩せ」という政治家がいるが、BSの貸し方科目は別にそこにお金が留保されているわけじゃない、と言うことぐらい理解してほしい、ということだ。
3.管理会計は重要。特に単品管理、品目ごとの原価、在庫管理が、何が儲かって、なにが邪魔しているかを見つけるために必要と言うこと。と同時に、確かに必要だが、それを成し遂げるのはとても大変だと言うこと、また、成し遂げるためにバカみたいな工数を掛けるのもばかばかしいし、要は必要なデータを見極めてそれをある程度の精度で出す、と言うその見極め、塩梅が大切と言うことだ。頭のいい人はしばしばこういう仕事に燃えて、やたら精緻にやろうとするからね、それが必ずしも良いことでは無い、目的と手段が逆転してしまうと言うところも、頷けた。大会社のシステムでもしばしばスマートな計算はできていない、いや、システムというのは、大きな会社でも手作業の行程をそのままぶち込んだものになっているという指摘には、おもわず苦笑いしてしまった。僕自身は大企業のシステム部門の人間ではないが、自分のいる小さな企業体でのシステムにちょっとだけ関わって、システム業者さんや、プロの人たちの話を聞く機会が最近かなりあったのだが、極端に言うと、「あなたの言うとおり作りますよ」という部分が多くあり、依頼側に法的なものを含めての深い業務知識がないと「手作業をそのままぶちこんだもの」になりかねないな、と感じたものだったのである。
 単なる経営数値分析では意味がない、という一番大きな主張には、まさに我が意を得たりの思いである。数字を大事にしながらもその数字の裏側にあるものあるいは氷山のように沈んでいて見えない部分をこそ見通す力をつけるべきである。そうしなければ、経営分析など単なる数字の遊びになってしまうだろう。IFRSに反対している部分も賛成。あれは投資家のスプレッドシートにきれいに並べるためのものに過ぎず、企業の文化的経済的背景を無視しているという主張も頷けた。僕はコンサルタントではないが、バックオフィス系の仕事をしているので、自分の問題意識が大筋で間違っていなかったと感じられて、とても勇気づけられた本であった。
 なお、共著のせいか、あるいは新書という形態からか、やや文章にあらい、意をくみ取りにくい部分があった。勢いはとてもあってよかったのでその勢いで意味をくみ取りましたが。ビジネス書として、二重丸、と思います。