「負けた物がみな貰う」 グレアム・グリーン  丸谷才一訳

高名な作者、名作と言われる作品でも、相性の良い悪いと言うことはやはりあるようだ。グレアム・グリーンは僕にとって、今ひとつ掴みにくい作家だ。と言っても、本作以外には短編集を読んだだけなのだけれど、目の付け所のポイントがわかりにくく、作品のバックグラウンド(キリスト教的教養とか、イギリス アッパーミドルあるいはハイブラウな階級のスノッブな文物とか)がよく分からないから、読み味わうと言うレベルに達することができない。「ヒューマンファクター」にはいつか挑戦してみたいけれど。
 そして、この翻訳。名にし負う丸谷才一。悪文であるはずがないのだが。数ページで困ったな、と思った。
 登場人物の会話する文体が古すぎる、今時婚約者に向かってですます体で話す四十男はあまりいないだろうし、「違うわ。平気じゃなくってよ。よく分かってらっしゃるくせに」(12P)なんて具合に話す麗しき女性はそれ以上に見つけることが困難だろう。もう一つ気になったのは、システムと言う言葉。カジノで賭に勝つための一定の方法、仕組み、と言った意味だと思うのだけれど、特に説明無くシステムと言われているので、昨今の情報社会で様々な意味で使われている言葉・頻繁に使用する言葉であるが故にちょっと違和感が。
 巻末に付いている著作リストによると、本作は日本で1956年に最初に出版されているようだから、この日本語は、昭和30年当時の日本の言葉と言うことになるのだろう。小津安二郎の映画を見るつもりになれば良いのか。
 と言うような困難を乗り越えて結末にたどり着けば、なかなか小粋なラブストーリー。十分に味わったとは言えないけれど。
味も素っ気もないけれど、あえて一言で言えば、金よりも愛ということか。いや、むしろディテールこそを見るべきか。
二度映画化されていると言うことだから、できればDVDを探してみたいと思った。

負けた者がみな貰う―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

負けた者がみな貰う―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)