生きる   黒澤明監督作品  1952年

志村喬主演の名高い作品である。市役所の課長が、胃がんであることを知って、自分の人生の意味を問い直し、一時は自殺を考えるほど追い詰められた挙句、市民から陳情のあった公園を作ることに残りの人生をかけ、死んでいく。生きる意味を問うた作品として、モラリスティックな名作として話題になることが多い。
僕もそういう、ちょっと説教くさい作品なんだろうな、と思ってみたのだが、映画的な面白さもふんだんにある作品だった。前半で主人公がさまよう場面、カフェでのジャズ演奏とダンスの強烈さ、主人公が喫茶店で何か作ればいいんだ、と悟って階段を駆け下りて行く上から女学生が「Happy birthday」を合唱する場面の面白さは、そのままスピルバーグの映画にあってもおかしくない画面構成、映画的トリックだ。
後半、主人公がなくなった後の通夜の席で、同僚や上司が回想する場面は秀逸。前半と対比すると、前半が少し間延びして感じられるほどである。
それにしても、役人というのは本当に昔から、一時間で済む仕事を一日かけてやっていたのだな。役人根性というものを強烈に批判している。その批評のまっすぐさ、強さというものは、現代ではむしろ新鮮に感じる。
僕の好きな加東大介がやくざの子分役で出ていて、主人公に対してすごむが、僕には人のよさが見えてしまうのはファンゆえか?演技は誰もみな迫力がある。もう一度じっくり見直してみたい作品だ。