映画「はやぶさ」 を見た。 私的レビュー

一大ブームになった小惑星探査機はやぶさの帰還については、僕も胸をわくわくさせ、涙腺が緩んだ一人である。科学的なプロジェクトであるのにどうしてこんなに心を動かされるのか、涙まで流してしまうのか不思議だった。
今でも不思議で、問い詰めていけば、科学とは何かと言う科学哲学的問題にさえ通ずるように思え、あれこれ考えてもいる。それについては、また書いてみたいが、とにかく。今公開中の映画「はやぶさ」を見てきた。
 結論としては、ほぼ予想通りの映画であり、出来だった。これには満足と少々の失望を込めている。
 満足の部分は、はやぶさプロジェクトの流れを手際よく纏め、様々なエピソードを最後の帰還の成功までつなげて理解させてくれるところ。幾つかの基礎的な科学的知見を映画でわかりやすく見せてくれるところなど。少々の失望とは、映画としてみると幾つかもっと作り込んでほしい点があるな、と言うことである。
JAXAの中で撮っていると思うのだけれど、せっかくだからもっとJAXAの空気と混じり合ってほしかった。食堂の一角を借りて撮影してますみたいな雰囲気が感じられたのは残念。高嶋政宏は熱演で、これはこれで理系のあるタイプのリアリティを表している、あるいは実際にモデルがあってああいうキャラだったのかもしれないが、ちょっとステロタイプな演技では、と感じた。熱血パワフルタイプの研究者はきっといるだろうけれど、もっと何か類型から抜け出す点が一つでもほしかった。
竹内結子は如才なく求められる役割をこなしている。彼女の役は言わば狂言回しのために作られたフィクションであるが、彼女が自分の中に宇宙を研究する科学者としての情熱を発見する物語と、はやぶさの物語と必ずしもうまくシンクロしていないと思った。別な言い方をすればはやぶさの物語が竹内結子の物語、ひいてはこの映画が含意する物語に収斂することになるのだろうけれど、僕としては必ずしも同調できない、ということなのだろう。
 佐野史郎は押さえた演技でよろしい。モデルが一番露出の多い川口さんだからやむを得ないよね。難しかったと思う。
 物語の山で、一度イトカワに着陸したはやぶさをすぐ離陸させるところと、再度の降下を川渕(佐野史郎)が決断するところは、もっとしっかり技術的説明をしてほしかった。竹内結子の生活描写を少々省いてもするべきだったと思う。
というわけで、エンターテインメントという面で見ると結構不満がある。このあたりは事実を説明する部分との兼ね合いで難しいとは思うけれど、もう少し演出を突っ込んでもらえたら、と思わぬでも無い。たとえばアポロ十三号と比べるとよく分かると思う。それこそ予算が違うかもしれないけれど。
 といっても、ロケットの発射場面から涙がうるうるしてしまい、ハンカチが手放せなかった。何で泣けてくるのだろう。ほんとに不思議だ。
 なお、はやぶさをテーマとした映画はこのほかにも2,3本作られるらしい。映画館でも、渡辺謙が出演するバージョンの宣伝をしていた。これもまた見てしまいそうだ。

 いろいろ書いたけれど、全体としては満足。良い映画でした。