「娘・妻・母」 1960年東宝映画 成瀬己喜男監督

 僕にとっては、まず出演者が堪らない。加藤大介、森雅之杉村春子三益愛子、高峯秀子、原節子宝田明仲代達矢草笛光子、小泉博、そして僕が子供の頃日本生命のコマーシャルでおばちゃんの役をやっている女優が、そのまま生命保険のおばちゃんの役をやっていて笑った。もちろんこっちの役があったから、あのコマーシャルがあったのだろうが。
これと言った出来事はなく、日常が淡々と流れていく。しかし、人が死に、借金があり、嫁姑のさや当てがあり、加藤大介が経営する工場がつぶれて一家が家を売らなくてはならなくなるが、怒鳴り合いや殴り合いにはならない。皆が時にエゴイズムを見せながらも、大きな破綻には至らない。しかし、たとえば高峯秀子演じる長男の嫁が、最後に「お母さんとやり直してみる」という言葉には、吐かれなかった多くの言葉が推し量られ、深い思いを感じる。品のよい表現とはこういうものなのだ。成瀬をしばらく追っかけてしまいそうだ。