太陽の帝国    スピルバーグ監督作品を見た。

スピルバーグ 制作 監督作品。原作 J・G・バラード。バラードはSFの巨匠である。もう亡くなってしまったけれど。
彼は少年時代を戦前の上海で過ごしたらしい、と言う事前知識のみで見た。
上海で日本軍に捉えられた英国人少年の体験を描いた作品だ。

日本軍が襲いかかる上海の争乱、捕虜収容所の造作など、いかにも野原に作ったセットのように見える、というように欠点をあげることができる。日本兵もいまいちステロタイプだし、(それでももっと非道い映画はたくさんあるから、かなりまともでは有るのだが)行進の場面もロボットみたいだ。伊武雅刀演じる軍曹も、人物像が作りきれていなかった。彼はあの捕虜収容所で一体何をやっていたのだろう。まあ、背景に過ぎないと言うことなのだけれど。

 しかし、「アマルフィ 女神の報酬」を見た後で見ると、遙かに映画としての感興を味わうことが出来る。
 少年が初めて日本兵と遭遇する場面のサスペンスとユーモア、ポイントとなる美しい映像を冗長ではなく、しかしたっぷりと見せるカット割り、収容所内を走る少年の動きを追いながら収容所を描写するカメラワーク。
考えすぎ、感じすぎてしまう少年が必死で生きていく有様、少年の捉えた戦争のイメージまで、観るものは想像の手を伸ばすことができる。

もちろん、スピルバーグ的なオブラートが掛けられていることは否定しない。もっと醜悪な振る舞い、もっと悲惨な死、酸鼻を極めた死体、むごい仕打ちが、本当の戦場にはごろごろしていただろう。ラストシーンで美しい絵柄の中、綺麗な服装の両親と再会するのもスピルバーグ的な結末である。
 それが、リアリティとは遠いとは分かっていても、僕はこのスピルバーグの手法が嫌いではない。こうして纏めてもらえないと、映画を観た後僕などは落ち着いて眠れないのである。

 楽しんで観ることができました。星3つ半かな。